将棋AIが一般に使えるようになって、上達の方法は大きく変わりました。かつては「強い人に見てもらう」以外に自分の手を検証する術がありませんでしたが、いまは誰でも一局を解析にかけられます。
ただ、AIを使っているのに伸びないという方も同じくらい多いのが実情です。この記事では、その理由と、効く使い方を整理します。
AIが教えてくれること
- どの手で形勢が動いたか(評価値の変化)
- その局面での最善手
- 読み筋(その後の想定手順)
これは非常に強力です。とくに「自分では良い手だと思っていた手が、実は緩手だった」という発見は、かつて独学では得られなかったものです。
AIが教えてくれないこと
ここが本題です。AIが答えてくれないのは、次の問いです。
「なぜ自分はその手を選べなかったのか」
評価値が下がった地点は分かります。最善手も分かります。しかし、あなたがその手を見落とした理由——読みの範囲が狭かったのか、相手の狙いを軽視したのか、そもそもその形が苦手なのか——は、AIの出力には含まれていません。
そして、伸び悩みの原因はほぼ常にこちら側にあります。
評価値を追うだけで伸びない理由
解析結果を眺めて「ここが悪手だったのか」と納得して終わる——これが最も多い失敗です。納得はしても、次に同じ局面が来たときに同じ手を選びます。手を覚えたのであって、選び方が変わっていないためです。
必要なのは、悪手の暗記ではなく、その手を選んでしまう思考の癖の修正です。
効く使い方:解析を「材料」にする
イエナアカデミーのレッスンでは、AI解析を振り返りの材料として使います。中心にあるのは対話です。
- まず本人に、その手を選んだ理由を言葉にしてもらう
- そのうえで解析結果を見る
- 読んでいた範囲と、実際に必要だった範囲のズレを特定する
順序が重要です。先に正解を見てしまうと、「自分は何を考えていたか」が正解に引きずられて思い出せなくなります。
この方法が向いている段階
対局量は足りているのに勝率が変わらない、という時期にいる方に最も効きます。逆に、まだ指す量が少ない段階では、解析より対局数を増やす方が先です(将棋ウォーズ・81道場と教わる将棋の違い)。
家庭でできる範囲
解析ソフトをご自身で用意する必要はありませんが、お使いになる場合は次の点だけ意識してください。
- 一局まるごとではなく、形勢が動いた1〜2箇所に絞る
- 解析を見る前に、自分の考えをメモしておく
- 「最善手」ではなく「なぜ自分の手が悪いか」を言語化する
よくある質問
AI解析ソフトは自分で用意すべきですか
必須ではありません。レッスンの中で解析を使った振り返りを行います。
評価値はどこまで信じていいですか
形勢判断としては信頼できますが、人間が指せるかどうかは別問題です。AIの最善手が、あなたの棋力では続けられない手順であることは珍しくありません。そこの見極めに指導者が要ります。
詰将棋とどちらを優先すべきですか
棋力によります。終盤が課題なら詰将棋、中盤で崩れているなら解析を使った振り返りが優先です。どちらが課題かは、棋譜を見れば判断できます。
解析にかけると悪手だらけで落ち込みます
級位者の棋譜であれば、悪手が多いのは当然です。すべてを直そうとせず、形勢が大きく動いた1手だけに絞ってください。改善は一度に一つで十分です。
AIの最善手を覚えれば強くなりますか
限定的です。同じ局面が再現することはまずないため、手そのものより「なぜその手が良いのか」の理屈を持ち帰る方が応用が利きます。
プロもAIを使っているのだから、同じ勉強法でよいのでは
プロは、AIの手を自分の読みで検証できる土台を持っています。その土台がない段階で手順だけ真似ると、外されたときに何もできなくなります。段階に応じた使い方が必要です。



